あの頃、テイエムオペラオーはナメられていたよねという話①

いきなりですが、「ラッキー珍馬」というネット用語があります。
昔から競馬をやっているネットユーザーには有名な言葉なのですが、
これは「ラッキーだけで実力に相応しくないぐらい勝った馬」という意味で、
もともとテイエムオペラオーのことを指す言葉だったんです。


要するに、テイエムオペラオーがあれだけ勝てたのは運がよかったからだ、という意味の言葉です。
ウマ娘でオペラオーを知った人には全く意味不明に映るかもしれませんが、
いつも2着がメイショウドトウだった、つまり他に強い馬がいないから勝ったのであって
相手に恵まれただけにすぎないというのがそう主張する人の主な根拠なんですね。


じゃあその風潮が捻くれもののネット民だけのものだったかというと、そうでもない。
一番大きかったのは1つ上の世代、つまりスペシャルウィーク世代の強さと華々しさが大きく取り沙汰されていたことにあります。その最強世代が去った後に覇権を握ったオペラオー。もちろん下の世代のこともありますが、上の世代にファンが非常に多かった。
あの世代と比べたら大したことがない、現実でもこんな感じの風潮がありました。
スペシャルウィークの方がずっと強いよね、とか言ってる競馬評論家もいたんですよ。井〇とか。


しかし時代は変わっていくもの。その時々の最強馬がゆるいローテで自分の得意条件でしか走らないようになってきて漸くわかること。
距離・条件を問わずに人気を背負ってレースに出続け、勝ち続けることはどれだけ強い馬でも難しい。

ウマ娘で新しくオペラオーを知った、先入観のない人にはどう見えているのだろう。
やっぱり偉大な名馬なんじゃないだろうか?


実績に比して人気がなかったテイエムオペラオー。(でも馬券は売れて普通に1番人気になっていた)
オルフェーヴルが出てくるまで、テイエムオペラオーが一番の馬なんだと強く信じていた私ですから、きっかけが何であれ、好きになってくれる人が増えるのは嬉しいこと。
(最初にウマ娘のビジュアルが発表されたときにはオペラオーのキャラ作りに不服なところありましたけどね)


さて、先日、ヴィレヴァンのニュースサイト?にてオペラオーの記事が上がってました。
ざっと概要を掴むぶんには確かに分かる、分かるけども…!
熱狂的オペラオーファンの自分にとってはもうちょっと物足りない!という感情がどうしても出てしまうんですよ。
あの内容だとニコ百とかwikipediaとか読むだけでも十分って気がしますし。


とにかく物足りなさを感じてしまったので、自分で紹介していくことにします。テイエムオペラオーとかそのへんのことを。
テイエムオペラオーは本当にそんなになめられるような馬だったのか?大したことなかったのか?
20年近くが過ぎた今、改めて振り返りつつ検証していきたいと思います。


基本的に、過度に物語性を持たせたり、知られざるエピソードみたいなもので語ったりするのではなく、事実ベースのみ(+個人的な感情)で大きな流れを見ていきたいと思います。
なので当時を知ってる人には別に新しい事実とかはないですよ。

あと競馬を過度に競技として美化することもしません。
レース映像から読み取れるテイエムオペラオー妨害の一手、とかは忖度なしに紹介していきますが。(根に持つのでw)


テイエムオペラオー・血統について

父オペラハウス、母の父ブラッシンググルームという血統のテイエムオペラオー
オペラハウスは欧州の名馬であり、その父は大種牡馬サドラーズウェルズ
サドラーズウェルズ系は現在においても欧州における主流血統の一つとなっています。
ブラッシンググルームも欧米で大成功した種牡馬で、ナスルーラレッドゴッド系の拡大に大きく寄与した名種牡馬です。

こうしてみるといい血統のようにも見える…のですが、
このサドラーズウェルズ系、日本ではほとんど実績が残せていない血統なんですね。

ここに2020年度の日本における系統別種付け数(ソースはジャパンスタッドブック)を集計したものがありまして。(集計したのは私です)

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サドラーズウェルズの父はノーザンダンサーノーザンダンサー系は世界の最大血統で、現在の世界シェアでは50%近くを占めています。しかし日本国内ではその父ニアークティックからの系統を含めても20%強のシェアしかありません。

そのニアークティックノーザンダンサー系をさらに細かく分類したのが下の表です。

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欧州における大流行血統であるサドラーズウェルズ系は、日本ではわずか2.74%のシェアしかないんですね。
テイエムオペラオーメイショウサムソンという名馬が出た後の時代の今でもこうなので、産駒デビュー前のオペラハウスの期待度はまあ知れたものというわけです。


母は未出走馬、生まれも浦賀のさほど大きくない杵臼牧場。
セリ市で競りかけてくるものもおらず、1050万という安価で落札されました。
管理調教師の岩元調教師も名調教師と呼ばれるほどではなく、鞍上は実績のない若手騎手、和田竜二
ここからの逆襲劇はもっと日本人好みのストーリーとして人気が出てもいいと思ってましたが、
20世紀末にはもうそういう判官びいきで人気が出る時代は終わってたってことなんでしょうねえ…


デビュー~東上最終便で皐月賞

さて、それでは実際のレースのほうを見ていきます。
骨折によって3歳(※当時の年齢表記、現在の2歳)のほとんどを棒に振ったオペラオーですが、
デビュー3戦目の未勝利戦を勝ち、続く4戦目ゆきやなぎ賞(500万下条件戦、現在の1勝クラス)で連勝。

皐月賞前の関西の最後の重賞で「東上最終便」と呼ばれるG3レース、毎日杯へと駒を進めました。

【競馬】 1999年 毎日杯 テイエムオペラオー - ニコニコ動画

テイエムオペラオーは1枠1番。

前目につけて残り200メートルで先頭、あとは差をつけるだけ。4馬身の差をつけての重賞初勝利。大器の片鱗をのぞかせる完勝です。
オペラオーが2着につけた着差としては重賞では最大の着差なんですよね。(ステイゴールド失格の京都大賞典を除く)
こういう派手な着差をつけて勝つレースがもっとあれば人気も出たのかもしれません。地味な勝ちが多いのも人気がなかった理由だとは思いますが、過小評価する理由にはなりません。


この毎日杯、東上最終便とは言われていますが皐月賞まで中2週と間隔が狭いため皐月賞ではなくダービーへ向かう馬も多いレースです。
今年のダービー馬、シャフリヤールも毎日杯からダービーへ向かっていますね。オペラオーもダービーへ向かうローテも考えられていたようですが、最終的には皐月賞に向かうことに。

しかし一つ問題があり、デビュー後に故障して勝ち上がりの遅れたオペラオーはクラシック登録をしていなかったのです。
「シンデレラグレイ」でオグリキャップに立ち塞がったこのシステムですが、その後ルールが変更され追加登録料をおさめることで後から登録することが可能になりました。
オペラオーはこのルールで追加登録して勝利した最初の馬であり、シングレでオペラオーの後ろ姿が描写されているのはそういう理由でもあります。
(他にもキタサンブラックも追加登録からクラシックを勝利した馬です。)

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ウマ娘シンデラグレイより)

ちなみにこの追加登録料は200万円なのですがこれは1レースあたりであるため、三冠レース全てに登録する場合は合計600万を払う必要があります。
オペラオーもキタサンブラックも登録だけで600万払っていることになりますね。



さて、ここでこの年のクラシック戦線に目を向けてみたいと思います。
朝日杯3歳ステークスを勝ち、3歳チャンピオンに輝いたアドマイヤコジーンが骨折によって戦線離脱。

代わって主役と言える立場となっていたのが暮れのラジオたんぱ杯3歳S(G3)(※現在のホープフルステークス)を勝った、アヤベさんことアドマイヤベガでしょう。

輝く一等星 アドマイヤベガ

二冠牝馬ベガを母に持ち、父は日本競馬の歴史を塗り替えたと言っても過言ではない名種牡馬サンデーサイレンス
生まれは日本競馬界の覇者ノーザンファームでついでに鞍上は世界の武豊
まさに超一流の中の超一流
また、アドマイヤベガは双子でしたが片方は生まれる前に処分されてしまっているというエピソードもあります。この話はウマ娘アドマイヤベガにも活かされていますね。
ちなみにアヤベさんという呼び方は当然ながらウマ娘オリジナルの呼称なので他ではまったく通じません。注意しましょう。


当然デビューから3戦全て1番人気であり、この年の主役と言ったらこの馬になるだろうと思わせるほどの馬です。
そんなアドマイヤベガの4歳初戦は皐月賞トライアルの弥生賞
このレースも単勝1.5倍の1番人気でしたが、そこに立ちはだかったのがこの年のもう1頭の主役、ナリタトップロードです。

最も愛されたイケメンホース ナリタトップロード

最初のほうでオペラオーは人気がなかったと言いましたが、
じゃあ誰が人気だったのかというとそれはもう間違いなくナリタトップロードでしょう。

輝く栗毛の馬体に大流星の抜群のイケメンホース。
父は内国産種牡馬の星サッカーボーイ
コンビを組む渡辺薫彦騎手はこちらも実績の浅い若手の騎手でしたが、非常に人気のあるコンビでした。
ナリタトップロードでのきさらぎ賞勝ちが渡辺騎手にとって初の重賞勝ちになっています。

残念ながらウマ娘では影も形もありませんが、
オペラオーと最も長く戦い続けた馬であるナリタトップロードなしにオペラオーは語れません。
オペラオーの育成ストーリーにこの馬がいないことを惜しんでいる人が多いのはそういうことです。


この年、トップロードはきさらぎ賞(G3)を勝ち、クラシックを目指すべく弥生賞に出走。
1番人気はアドマイヤベガに譲り、ここでは単勝4.0倍の2番人気でした。


4枠6番アドマイヤベガ
7枠12番ナリタトップロード

後方からの追込みに賭けたアドマイヤベガに対し、トップロードは早めに仕掛け、4角2番手まで押し上げています。
外から最速の上がりでようやく追い込んできたアドマイヤベガでしたが、時すでに遅し。
抜け出したナリタトップロードを捉えられず、ナリタトップロードの重賞2連勝となりました。

このレースは渡辺騎手の仕掛けのタイミングが抜群でしたね。
アドマイヤベガも負けてなお強しという印象で、皐月賞でも本命と見られていたのはやはりこの2頭。テイエムオペラオーはまだ毎日杯を勝ったばかりの伏兵馬でありました。


クラシック三冠編に続きます。